大阪地方裁判所 平成6年(ワ)5313号 判決 1996年6月11日
奈良県<以下省略>
原告
X
右訴訟代理人弁護士
大深忠延
同
斎藤英樹
名古屋市<以下省略>
被告
株式会社アイメックス
右代表者代表取締役
A
東京都豊島区<以下省略>
被告
Y1
大阪府吹田市<以下省略>
被告
Y2
右被告三名訴訟代理人弁護士
佐尾重久
同
浦部和子
主文
一 被告株式会社アイメックスは、原告に対し、金一九〇四万六八七一円及びこれに対する平成六年三月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その一を被告株式会社アイメックスの負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
被告らは、原告に対し、連帯して金三八五九万三七四二円及びこれに対する平成六年三月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実
1 被告株式会社アイメックス(以下「被告アイメックス」という。)は、商品先物取引について、一般委託者等からの受託を業とする商品取引員であり、B(以下「B」という。)、被告Y1(以下「被告Y1」という。)及び被告Y2(以下「被告Y2」という。)は、被告アイメックスの被用者であった。
2 原告は、平成五年九月頃、B、被告Y1及び被告Y2の勧誘を受けて、別紙一覧表記載のとおり商品先物取引(以下「本件取引」という。)をした。
二 原告は、B、被告Y1及び被告Y2(以下「Bら」という。)が違法に本件取引を勧誘したものと主張し、不法行為による損害賠償請求権(民法七〇九条、七一五条及び七一九条)に基づいて、損害賠償を求めている。
三 本件の主要な争点は、次のとおりである。
1 Bらの不法行為の成否。
2 原告の損害額如何。
3 過失相殺の可否。
4 弁護士費用如何。
第三争点に対する判断
一 争点1(Bらの不法行為の成否)について
1 甲第一号証の一(催告書)及び二(配達証明書)、第四号証(同窓会名簿)、第一二号証(陳述書)、第一三号証(メモ)、第一四号証(振込金受取書)、第一六号証(通帳)、第一七号証(通帳)、第一八号証(取引報告書)、第一九号証(借用書)、第二〇号証(資金受取書)及び第二一号証(アンケート)、乙第一号証(委託者別先物取引勘定元帳等)、第二号証(約諾書兼通知書)、第三号証から第八号証まで(確認書)、第九号証(説明書)、第一二号証(アンケート)及び第一三号証(アンケート)、証人Bの証言、原告、被告Y1及び被告Y2の本人尋問における供述並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 原告は、昭和二六年○月生の男性であり、昭和四五年にa工業高校機械科を卒業して○○に就職し、現在は、○○において設備課長の地位にある。本件取引以前は、若干の株式の売買の経験はあったものの、商品先物取引の経験は皆無であった。
(2) Bは、大阪市立興国高校を卒業し、平成四年六月に被告アイメックスに就職した者であり、平成五年九月当時は、被告アイメックスの新大阪支店に勤務して営業に従事していた(その後、平成五年一〇月に退社している。)。右の新大阪支店における当時の顧客開拓の方法は、専ら、高校、大学等の卒業生名簿を使用して電話で勧誘をするという方法であり、Bも、上司の指示に従って同様の方法で顧客の開拓に当たっていた。
(3) Bは、右の顧客開拓の一環として、平成五年九月頃、原告に対し、電話で「a工業高校の後輩です。同窓のCさんも知っています」と虚偽の自己紹介をした上で、トウモロコシの先物取引の勧誘をした。原告は、最初の電話の勧誘は拒否したものの、同月二一日頃、Bから再び電話があり、「近くまで来ました。話だけでも聞いてください」などと言ったため、Bを高校の後輩であると信じていたこともあって、近所の喫茶店でBに会った。Bは、原告に対し、被告アイメックスの会社案内、パンフレット等を手渡し、先物取引について概略を簡単に説明した上で、「異常気象でアメリカのトウモロコシの生産が落ちています」「G七がロシアを支援することになって、トウモロコシを買い付けるという情報があります」などと言って、トウモロコシの値段が上がることは間違いないし、その値上がりは一〇〇〇円以上であって、二四〇万円の投資で二七九万円の純益が出ることが確実であると強調し、その場で、その旨の計算式をメモ用紙に記載した(甲第一三号証の一、二及び三)。それでも、懐疑的であった原告に対し、「同郷の私がやるので間違いありません」などと言って勧誘をしたが、原告はBの勧誘を断った。
(4) 翌二二日、B(ただし、Bは、上司のDがBを名乗っていたものと証言している。)は、原告に対し、電話で、「いま価格が上昇しています。絶好のチャンスです。二四〇万円を二、三か月ほど預けていただければ、昨日申し上げた利益を差し上げます」などと言って執拗に勧誘をした。原告は、トウモロコシの先物取引を承諾し、その日の午後五時頃、喫茶店でB及びDと面談をした。B及びDは、原告に対し、先物取引の概要を簡単に説明した上、「あとでよく読んでおいてください」などと言って、商品先物取引の説明書(乙第九号証)を手渡した。原告は、先物取引をすることを承諾し、約諾書兼通知書(乙第二号証)に署名及び捺印をした。その後、原告は、Bらの指示に従って同月二四日に二四〇万円を振り込み、本件取引を開始した。
(5) 新大阪支店の部長代理の被告Y1は、同年一〇月五日、原告に対し、電話で「相場が急落です。追証が発生しました。両建にしないと危険です」などと言った。原告が「話が違う。B、Dに替わってくれ」と言うと、被告Y1は「二人とも名古屋勤務になっていません」と返答し、更に「三〇〇万円を用意してください」などと言ったため、やむを得ず、これを承諾し、同月八日、保有していた株式を売却し、代金三〇〇万円を振り込んだ。その後、原告は、アンケートに答えて「認識不足点が多く、初めてなので良く理解できない点が多く、とまどっております。基本的に資金が不足してるので、速やかに取引を中止したい」(甲第二一号証)との連絡をしている上、被告Y1に会って、先物取引を中止したい旨も告げているけれども、被告Y1が「両建になっています。追証が発生しました。お金をいれないと損が増えます」などと言って追証を求めたため、知人から借金をし、同月二六日、四三〇万円を持参し、被告Y1に対し「これは借金したお金です。もう資金がないから、取引を中止して欲しい」などと言って取引の中止を申し出た。被告Y1は、「よく分かっています。しかし、損をさせるわけにはいきません」と返答しただけであった。
(6) 新大阪支店の支店長兼営業部長の被告Y2は、原告に対し、平成五年一一月頃、電話で「Y1は九州支店に転勤になりました」と言って自己紹介をし、以後の本件取引は被告Y2及びE課長(以下「E」という。)が担当した。同月九日、原告は、被告Y2の代わりの従業員から電話連絡を受け、「追証が発生しました。直ぐに資金を用意してください」などと言われて、更に六〇〇万円を借金して用意した。また、一二月一六日には、Eから電話を受け、同様に追証の要求を受けた。翌一七日、原告は、Eに会い、資金不足を訴えると、Eは「他のお客さんも同様に資金が不足しています。資金をいれてこの場を凌いでください」と返答した。原告は、その後も借金を重ねて本件取引を継続し、最終的には、弁護士に相談をし、弁護士の指示によって本件取引は終了した。
2 右の認定事実によれば、B及びDは、原告に対し、虚偽の事実を告知し、断定的判断を示し、更に、商品先物取引について十分な説明をしないまま、トウモロコシの先物取引を執拗に勧誘し、原告が本件取引を開始した後は、被告Y1、被告Y2、Eらは、原告が本件取引の中止を申し出ているにもかかわらず、その意向を無視して強行に取引の継続を促したものであって、その勧誘の態様及び内容は、商品先物取引上の相当な範囲を越えている違法なものであるといわなければならない。したがって、被告アイメックスの従業員の勧誘行為は不法行為に当たるものと認めることが相当である。ただし、被告Y1及び被告Y2は、前記のとおり、それぞれ別個に本件取引の一部の勧誘に関与しているに過ぎず、共同不法行為に当たるとはいえないから、その全部について不法行為責任を負うものと認めることはできないといわなければならない。
二 争点2(原告の損害額如何)について
1 前記の争いのない事実及び認定事実によれば、原告の本件取引上の財産的損害は、三四〇九万三七四二円である。なお、前記のとおり、被告Y1及び被告Y2は、本件取引の一部の勧誘に関与しているに過ぎないから、その全部について不法行為責任を負うものと認めることはできないところ、被告Y1及び被告Y2の各責任範囲は必ずしも明らかではないといわざるを得ない。したがって、原告の被告Y1及び被告Y2に対する請求は棄却を免れない。
2 また、原告は、慰藉料一〇〇万円を請求しているけれども、原告の精神的苦痛は、本件取引上の財産的損害の回復(被告アイメックスに対する関係では、被告アイメックスが責任を負わなければならない部分の回復)によって慰藉されるべきものであるから、慰藉料を損害として認めることは相当でないものといわなければならない。
三 争点3(過失相殺)について
前記の認定事実によれば、原告は○○において課長の地位にある者であって、B及びDから、本件取引の開始前に、商品先物取引の概要について簡単な説明は受けている上、被告アイメックスの会社案内、パンフレット及び商品先物取引の説明書(乙第九号証)を受け取っているのであるから、右の説明書を熟読し、仮に不明な箇所があれば被告アイメックスの従業員に説明を求める等して、商品先物取引の仕組み、その危険性等を十分に理解することができる能力はあるものと考えられる。その上、本件取引の途中でも、被告Y1、被告Y2及びEらの勧誘を拒絶して被告アイメックスに対し正式に取引の中止を申し入れて本件取引を中止することも不可能ではなかったものと思われる。したがって、右の事情その他の諸事情を斟酌すれば、原告の本件取引上の財産的損害の五割に相当する一七〇四万六八七一円について被告アイメックスが賠償責任を負うことが相当である。
四 争点4(弁護士費用如何)について
次いで、原告の損害としての弁護士費用について検討すると、本件事案の内容、請求額、認容額その他の事情を斟酌すれば、被告アイメックスが負担する原告の弁護士費用は二〇〇万円が相当である。
五 よって、原告の請求は、被告アイメックスに対し、財産的損害金一七〇四万六八七一円及び弁護士費用二〇〇万円並びに右の合計金一九〇四万六八七一円に対する不法行為の日以後の日である平成六年三月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから右の限度で認容し(仮執行宣言を付することは相当でないから、原告の仮執行宣言を求める旨の申立ては却下する。)、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判官 小林昭彦)
<以下省略>